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ラストラインを越えて

第30章 クリスマス・イブ


『うん、大丈夫っ。約束だよ!』
神座の返答にホマレは満面の笑みを浮かべた。
明日は神座のために頑張って走ろう。
改めて決意を固め、ホマレは上機嫌に帰る準備を始める。
「……僕からも1つ、約束してほしいことがあります」
トレーナー室の片付けを再開しながら神座が言う。
「最近、最後の直線で無茶な加速をする癖が目立っています。明日こそはそうならないよう気を付けてください」
諭すような口調に、ホマレはマフラーを巻く手を一旦止めた。
天皇賞以降、練習でもあの走りを試していた。その度に神座からラストスパートの走り方を矯正させられている。
『えへへ……おかげでフォームのブレ、かなり改善されたよ?』
苦笑いでごまかすホマレを一瞥してから、神座は静かに続ける。
「僕のプランはあなたの身体が耐えられるかどうかも計算に入れています。無理して1着を狙って、それで故障してしまったら何の利もありません」
いつもの調子で淡々と言い聞かせる神座だったが、ホマレはどこか感動した表情で目を見開いていた。
『トレーナー、私のこと心配してくれてるの……?嬉しい……!』
自身の両頬に手を添えながら、ホマレは今にも踊り出しそうな調子で脚と尻尾をバタつかせる。
「喜ばないでください。僕は怪我する原因を作るなと言っているだけです」
『へへ、ありがとう。気を付けるね』
結局片付けが終わるまで居座っていたホマレは、浮かれた足取りのまま神座とトレーナー棟を出る。
澄んだ冷たい空気に晒され、ホマレはマフラーに鼻を埋めた。
隙間から漏れ出た白い息が風に流れて散っていく。
『寒いね。トレーナーもさ、体冷やさないように気を付けて帰ってね』
「もちろんです。あなたも自己管理は怠らないように」
『大丈夫、言われた通り早く寝るよ』
時刻はまだ18時。
ゆっくり夕食と入浴を済ます余裕がある。
『じゃあね、トレーナー!また明日!』
寮の前まで送り届けられたホマレが、遠ざかる神座に手を振った。
神座も一度だけ手を振り返し、あとは前だけ見て帰っていく。
『ふふ……明日、楽しみだなぁ』
背中が見えなくなるまで見送ってから、ホマレは満足げに寮に入っていった。









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