第28章 2度目の夏合宿
7月終わりのよく晴れた日の午後。辺りに見えるのは、雑然と生えた木々ばかり。
『トレーナー、どこ~?』
山で坂路トレーニングをしていたホマレが声を上げる。
先ほどまで神座と一緒にいたものの、調子に乗って山道から外れた拍子に来た道が分からなくなってしまった。
『はぐれちゃった……今頃、血相変えて私のこと探し回ってるかも』
早く合流して安心させなくては。
ホマレは勘に任せ、それらしい方向に進んでいくことにした。
『さっきまで山頂目指して駆け上がってきたわけだから……下に行けば間違いないよね』
木の根や枝に気を付けながら下っていく。
自分を追いかけて登ってくる神座と鉢合わせできる可能性はあるだろう。
『いや、それなら山頂に行った方がいいのかな……? でも山頂の高台より麓の方が近そうだし……うーん……』
逡巡しながらも脚は止めずにいた。どれだけ歩いても走っても、山道は見えない。
『(スマホ持ってくればよかった……)』
トレーニングの邪魔になるから通信機器は合宿所に置いてきていた。連絡手段がない状況がホマレをより一層焦らせる。
『トレーナー!神座トレーナー!おーい……!』
少し行っては声を張り上げ、神座を呼ぶ。
しかしセミがうるさくて、呼び掛けた声はその騒音に掻き消されている気がした。
『だ、大丈夫、大丈夫……これも走り込みの一貫になる。足元悪いから体幹も鍛えられる……かも。大声出しながら走ったら肺活量と腹筋に効くだろうし……』
段々募ってきた不安を静めようと、自分自身に言い聞かせながら獣道ですらない場所を通っていく。
膝まで埋まる藪に脚を取られたり、泥濘や苔で滑りそうになりながら進むうちに、段々と疲れが溜まってきた。
『はあ、はあ……うぅっ、神座トレーナー……!』
少し涙ぐみながら近くの木に手を突く。
デコボコした斜面や夏の蒸し暑さが着々と体力を奪っていた。
『ちょっと休憩しなきゃ……』
荒い呼吸を繰り返しながら少し立ち止まっていると、ふいに自然のものではない音が鼓膜に届いた。