第27章 ゲームセンター
『まずは上のやつを退かして~……』
自分のぬいぐるみを潰すように置かれた大きめのぬいぐるみの上までアームを移動し、そのまま降下させた。
勝負服姿のオルフェーヴルのぬいぐるみだ。
ぬいぐるみだと云うのに本物さながらの凛々しい顔つきをしている。
精悍な見目で地味な日陰者を押し潰している様子は、まるで現実での2人の実力差を見せ付けられているかのように感じて少しムッとした。
『も~、ライオンさんみたいなお顔しちゃってェ……』
オルフェーヴルのぬいぐるみに文句を言いながら、アームが掴むのを見届ける。
すぐにオルフェーヴルのぬいぐるみは掴み上げられ、獲得口の手前で零れ落ちた。
『いい感じ!』
障害物がなくなった自身のぬいぐるみを確認し、ホマレは満足そうに百円を追加で入れる。
『んしょ……あれっ?』
同じようにアームを動かしぬいぐるみを掴み上げたはいいものの、少しも行かないうちに景品を手離してしまう。
まぁそういうものか、とホマレは資金を追加した。
『うわっ、また……。よしっ、次こそ……』
今度は獲得口の近くまで進んだものの落ちた衝撃でバウンドし元の位置に戻った。
ままならないことに悔しさと焦れったさを感じながら、元の場所に戻っていくアームを睨む。
『アームの設定おかしくない? 難しすぎ!』
失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。
百円玉が次々と筐体に吸い込まれていく。
キトウホマレのぬいぐるみは幾度となくアームに撫で撫でされ、1人の女子校生の大事な娯楽費は虚無へ捧げられた。
『ぜっ、全然獲れないぃ……!』
残り少なくなった資金と時間に焦りを覚えたホマレが情けない声を上げる。
神座は黙ってホマレの格闘を眺めていた。
「あと1分」
腕時計を見ながら追い打ちをかける。
しかし始めてから既に15分は経過していた。
『イヤだ……!まだ終わってない……!』
財布の中に残された最後の百円硬貨を掴み、祈るような気持ちでホマレは投入口に押し込む。
まるでレースの直前のような真剣な表情でジョイスティックを捏ね繰り回し、降りていくアームを固唾を呑んで見守った。