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ラストラインを越えて

第26章 号外


『私、3年目でまだ重賞も勝ててないのに……。同じ学園のウマ娘だけど、なんか遠い存在みたい』
順調に戦績を上げていくオルフェーヴルの記事を読みながらホマレは溜め息を吐いた。
「彼女は彼女、あなたはあなたです」
淡々とした声で神座が言う。
励ましと言うよりも「よそはよそ、うちはうち」みたいなニュアンスだった。
『けどさ、トレーナーの指導力ならさ……もしオルフェーヴルみたいな子を担当してたら、きっとあっという間に三冠ウマ娘とか七冠ウマ娘になってたんじゃないかな』
神座は傘の先で駅構内の床を軽く叩き、少しだけ息を吐いた。
「僕が選んだのはあなたです。そのことに微塵も後悔や不満はありません。僕の指導がどれだけ的確だったとしても、他人との比較は無意味です」
『……うん、それは分かってる。私が勝つ見込みのないウマ娘だから選んでくれたんだったよね』
ホマレは号外をそっと折り畳み、紙袋にしまう。
濡れた紙が指にくっついて、じんわりと冷たさが残った。
『…………』
改札からホームに向かう途中、少しの間2人の会話が止んだ。
雑踏に混じり、ただはぐれないように隣り合って進む。
『変なこと訊くけど……』
沈黙を紛らわすように、ホマレがまた神座に言葉を投げる。
『トレーナーはさ、もし私がトレーナーの指導でめちゃくちゃ強くなって、クラシック三冠も有馬も制覇できてたとしたら……やっぱ嬉しい?』
億劫そうな物言いだった。
神座が視線を下げると、ホマレは目を合わせるのを避けるように下を向く。
「さあ、どうでしょう」
ホマレからの問いかけに、神座は少し考えるような素振りで言葉を継ぐ。
「あえて答えるなら……何もかも上手くいくことに対して「ツマラナイ」と感じていたでしょうね」
『勧誘のときも言ってたね、それ』
2年前の今頃、神座と初めて会った日に聞かされた話を思い出す。
簡単に勝てるような強いウマ娘を育ててもツマラナイ。弱いウマ娘をどこまで強くできるか試したい。
そんなことを言っていた。
最初はただの自惚れだと思っていたけれど、あまりにも伸び代が絶望的だったホマレの成長や戦績が過言ではないことを物語っていた。
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