第2章 春
女子風呂 side
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「……ふぅ~~~~~、極楽……」
湯船に肩まで浸かって、目を閉じる硝子。その隣で、ゆうなもそっと息を吐いた。
「なんか、今日疲れたなぁ」
「なに、任務のせい?」
「うん……いや、違う……かも……」
硝子が半眼でゆうなを見る。
「あの2人…いや、夏油でしょ」
「う……」
沈黙。だが、その赤くなった耳と俯いた表情で答えは明らかだった。
「これはゆうなが恋を知ったって感じ?」
「ち、違う! そんな、好きとか…ただ、ちょっと、任務で助けられたこと思い出して…それだけだよ?」
「その“それだけ”が気になってる時点でアウトなんだよな、恋って」
「もぉ~~硝子ちゃ~んっ!」
パチャパチャと手でお湯をはたきながら抗議するゆうなを、硝子はにやにや眺めていた。
「……でも、ま、夏油なら悪くない。あいつ、ああ見えてゆうなのことめっちゃ大事にしてるし、でも五条も同じか」
「…私、分かんないよ」
「最後はゆうなが決めること。でも──」
「どっちも選ばない方が面倒くさそう」
と硝子はにがわらいする。
ゆうな「えっ……えぇ~……」
男子寮 side ◇
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「──…なぁ、傑。ぶっちゃけ聞くけどさぁ」
「なんだい、悟。」
五条はベッドに寝転がりながら、天井を見上げる。
「お前さ、ゆうなのこと好き?」
夏油は笑わない。読んでいた本をテーブルの上に置いた。
「どうしてそう思う?」
「お前さ、ゆうなと任務行ったあとからちょっと雰囲気変わったじゃん。あいつのこと、“妹みたい”って言ってたくせに、目の色が違ってきたっつーか」
「…ふふ、それは君がゆうなをよく見てるからじゃないか?」
「“妹”に向ける目じゃねーよ。あんなの」
その一言に、夏油は少しだけ目を細めた。
「なら、どういう目だったと思う?」
「俺と同じ目」
「“自分のだけにしたい”って、そういう目」
沈黙が落ちる部屋。
だが、やがて夏油がぽつりとこぼす。
「さっきも言ったけど、選ぶのはゆうなだ」
「はは、ぜってー負けねー」
その向こうで、どこかの女子風呂では──
「夏油くんのこと、好きとかじゃないもんっ!」
と、ゆうなが耳まで真っ赤にしながら叫んでいるのだ