第5章 誓いと背反
「……触れても、よろしいですか」
「……は、はい……でも……、あんまり見ないでください……」
か細い声と共に、ジルさんは顔を隠すように両手で頬を覆った。
「そんなに恥ずかしがられると、こちらが困ってしまいます」
「し、仕方ないじゃないですか……」
伏し目がちに言う声が可愛くて、私は思わず口元を緩める。
私は彼女の胸元に手を伸ばし、柔らかく包み込むように触れた。
ジルさんは息を呑み、喉を震わせて、ぎゅっと私の腕にしがみつく。
逃げない。その代わり、声を殺すようにして震えていた。
「……怖かったら、いつでも言ってください」
「怖くは……ないです……」
「痛かったら、すぐに止めます」
「や、優しすぎると……逆に泣きたくなります……」
私は苦笑しながら、そっと彼女を抱き寄せる。
その震えは、不安ではなく、熱に似ていた。
ゆっくりと、私は彼女とひとつになる。
ジルさんは目を閉じ、唇を噛み、そして私の名を呼んだ。
私はその声に応えるように、そっと額を重ね、彼女のすべてを抱き締めた。
「……好きです」
「わたしも……あなたのものになれて、嬉しい……」
敬語が崩れていく。
ジルさんの細い指が私の背を撫で、私はその肌の熱を直に感じながら、ただ何度も彼女の名を呼ぶ。
「バデーニさん……好きです……もう、なにも、なにも要らない……っ」
「……もう、誰にも渡さない……」
夜の静けさの中で、私たちは息を合わせるたび、確かに世界を変えていった。
火の音、森の香り、互いの肌の熱。
これは罪かもしれない。
けれども私には、これは祝福に思えた。
神の光を背にして堕ちていくのではなく、
私たちはたしかに、ここで救われていた。