第4章 観測されざる傷
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、何か見えないもので締めつけられたように痛んだ。彼の謝罪が、私のためのものだったことが、すぐに分かった。
でも──それを言うのは、私のほうだった。
守れなかった。
あなたが誰にも寄りかかれず、ずっと独りで歩いてきたこと、私は分かっていた。
それでも、あの日、真正面からその痛みに踏み込むことはできなかった。
いずれ、きっと。もっと穏やかなときに、もっと言葉を選んで──
そうやって、自分に言い訳していた。
でも、その“いつか”はもう来ない。
あなたは、もう見えない。
取り返せるはずだったものが、もう二度と戻らないところまで行ってしまった。
私は、それを黙って見過ごしたわけじゃない。けれど、踏み出すのが遅すぎた。
この人の孤独も、傲慢も、恐れも、すべて受け止める覚悟を持つのが遅れた。
「……ごめんなさい」
ようやく絞り出した声は、ひどく掠れていた。
「ごめんなさい……あなたを、こんなふうにしてしまって」
守りたかった。
誰よりも近くにいて、傷つかないように、誰にも壊されないように守りたかった。
でも、私はその責任から目をそらしていた。
震える指が、彼の手に重なる。体温が、確かにそこにあった。
けれど、その熱にさえ、触れる資格があるのか分からなかった。
それでも私は、震える手を彼の手に絡めた。
たとえ、この悔いが一生消えなくても。
たとえ彼がこの先、もう一度私の顔を見ることができなくても。
私は、あなたの手を離さない。