第5章 忘れられない人
ある日のトレーニング室の一角。
汗を流す音と、誰かの笑い声。
その隅で、は静かにタオルやドリンクの補充をしていた。
優人のいる空間にいることはなるべく避けている。
しかしそうもいかない時もある。それが今だ。
視線は自然に逸らしているつもりだった。だが──どんなに目を逸らしても、“あの存在”が視界の端から離れない。
(……またいる。今も、ここに)
優人は笑っていた。國神にアドバイスをしながら、千切に声をかけながら。まるで、ここに昔から馴染んでいたかのように。
──数日前までは、そんな世界、なかったはずなのに。
凪「?」
呼ばれて、肩が跳ねた。振り返ると、そこにいたのは凪だった。
凪「さっきから水、ボトルに入れすぎだよ」
「あ……ごめん、気づかなくて」
凪「疲れてる? それとも、ぼーっとしてた?」
凪は悪気のない声音でそう言いながら、横からスッとタオルを取り上げる。彼に悪意はない──分かってる。それでも、問いかけにどう答えればいいのか、分からなかった。
そこにもう一人、潔がやってきた。
潔「、大丈夫か? 顔、ちょっと赤いぞ」
「うん、大丈夫。ちょっと空気がこもってただけ」
無理やり笑った。
けれどその笑顔が、彼らの目にどう映っているかは分からない。
潔と凪はしばらく何か話していたが、その会話がすっと止まる気配を感じて、ふと横を見ると──