第5章 忘れられない人
ロッカー室を出て、廊下を歩いていた潔と千切。
その途中で、廊下の先からが一人、静かに歩いてくるのが見えた。
千切が小さく声をかける。
千「……」
「あ……うん」
少しだけ顔を上げた。
その表情は、どこかぼんやりとしていて、足取りも少し重い。
潔と千切は顔を見合わせ、さりげなく歩調を合わせて並ぶ。
潔「なあ、変なこと聞くけどさ──」
「……?」
潔「最近、ロッカーって触ったり……してないよな。俺のとか、千切のとか」
その言葉に、の肩がピクリと動いた。
だが、すぐに小さく首を振る。
「ううん。してない……。なんで、そんなこと……?」
千「いや、ちょっとだけ違和感あってさ。物の位置とか、たたみ方とか……誰かが中見てるみたいな感じ、あったんだよね」
はほんの一瞬、呼吸を詰めたように見えた。
だがそれを悟られまいと、曖昧な笑みを浮かべる。
「……そっか。でも、私じゃないよ。そんなこと、するわけないし」
潔「うん、そう思って聞いた。ごめん。なんかさ、ちょっと気になって」
千「これでニ回目なんだよ。偶然にしちゃ出来すぎててさ」
「…………」
声には出さなかったが、の瞳の奥に、うっすらとした“怯え”が浮かぶ。
(──まさか。優人が……?)
潔はそんなの表情の変化に、なんとなく違和感を覚えたが──
それを言葉にするには、まだ材料が足りなかった。
潔「まぁ、とりあえず記録だけは残しとくことにした。なんかあったら教えてな」
「……うん」
三人の足音が、廊下に小さく響く。
の胸の奥では、誰にも気づかれないように、心臓の鼓動が早鐘を打っていた。