第14章 ズルイヒト♮③
「失礼ですが、愛梨さんには想い人はいらっしゃるのでしょうか?」
「ほへぇ!?え、い、いや、な、何故、そのようなその...」
「いえ、もしそうだとしたら、随分不躾なお願いをしてしまったのではと思いまして...」
「うぁ...あ、そ、その...」
余りにも純粋に聞くものだから、こっちが恥ずかしくなってしまう。
でもこれが彼の良いところなのだろう。う、うん、す、好きな人はいるかな...?と、思わず返事をしてしまう。なるほど、恋する女性は美しくなると聞きましたが、通りで。と返されたもんだから、これまた恥ずかしい。また赤面していると、愛梨さん。と歩みが止まる。
「実は、その...自分にも、想い人、と呼んで良いのか、分からないのですが、気になる人がおりまして...」
「う、うん...!」
「少なからず、相手も、同じ気持ちなのでは、と思うのですが...気持ちを確かめられぬまま、このお見合いになってしまい」
「そうだったんだ....わ、私も似たような感じかな...好きな人とは、仲良いんだけど...」
「そうなのですか!奇しくも、似た境遇だったのですね。愛梨さんの想い人は、きっと素敵な方なのでしょうね」
「...素敵...うん、そう、だね。私には勿体ない人だよ」
「ふむ...愛梨さん、失礼を承知で、お願いがあるのですが....」
話を聞けば、どうやら今日の見合いが上手くいかなくても、相手が見つかるまで、お見合いは続けなければいけないらしい。そうなると、心に決めた人がいる彼としては、相手にも失礼だし、かといって、自分の気持ちを偽ることもできず、困っているのだと言う。
なるほど。彼の家は昔からの名家で、しがらみはたくさんあるのを知っている。彼の想い人は、すぐに会える人では無いらしく、良かったらアドバイスなどの相談がてら、これからもお会いできないかと言われた。なんだか他人事では無くて、私で良ければ、とお返事してしまった。
おぉ!ありがたい!愛梨さん、よろしくお願いいたします!そう、満面の笑みで、力強く握手をされた。
腕がちぎれてしまいそうな勢いに、なんだか笑ってしまった。
私の恋は、どうなるかわからないけれど、せめて、目の前の可愛い彼の恋は、応援したい。
「よろしくね、真斗くん」