第1章 隣のトキヤくん①
「今日そっち行っていい?」
ジリジリ夏の日差しが照りつけ始める頃。
隣を歩く彼は「ダメといっても来るのでしょう?」と鞄からそれを渡してくる。
チャリ...となる銀色の、何とも珍妙な姿をしたペンギン?のキーホルダー付けた鍵を軽く投げられる。見事私の元へとやってきたそれをポケットにしまいこむ。
「夜は?」
「チキンのサラダとミネストローネ」
「やった!それ好き!」
「嫌いなものないでしょう?」
「あるよー!野菜しか出ない日とか」
「好き嫌いは駄目です」
「あ、ご飯は?」
「...いつも通りで」
「オッケー、炊いとく」
こんな会話も周りの人が聞けば付き合ってるのか?と聞かれるが、違う。
ただ、たまたま幼い頃に家が隣で、同じ歳で、小、中、高と一緒で、さて、やっとこさ大学だ、となれば、私は片道1時間以上かけて通い、彼は実家を出て大学から徒歩10分。
ちょっと親同士も仲が良いもんだから、あれよあれよいう間に入り浸り。
私の一人暮らしが...と頭を抱える彼には、気が付かないフリをして。
だから、関係性を聞かれたら
“ちょっと距離が近い幼なじみ”
ぐらいに答えている。
多分それが妥当な言い方だ。
別にずっとべったりとかではない。
確かに一緒に遊んだりはしていたが、中学生の頃には、違うグループで遊んでたし、高校生にもなると、まぁ、うん、お相手が居なかった訳でもない。互いに。
まぁ普通に家が隣だったし、家族ぐるみで出かけることも度々あったり、なんの因果か最後のクラスが一緒で、卒業アルバム係なんてものに任命されちゃって、高校最後の1ヶ月ぐらいは結構一緒に居たと思う。
その流れのまま、大学が同じだった訳で、今に至る。勿論、お互いに、お相手はいない。
「じゃあ後でねー!」
「ええ」
大学で仲良くなった友人の姿を見つけて、隣の彼に別れをつげて走っていく。
ポケットのペンギンを落とさないように、しっかりと手で押えながら。