第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
「じゃ、案内は以上。疲れたでしょ。今日はゆっくり休んで――」
そう言って背中を向けた先生に、思わず声をかけていた。
「……先生、ひとつだけ……いいですか」
「ん? なに、改まって」
扉に手を掛けたまま、先生が振り返る。
「……わたし、本当に……ここにいて、いいんでしょうか」
先生はしばらく黙ってから、こちらに歩み寄ってくる。
数歩先で止まり、視線を合わせるようにしゃがみ込む。
その距離がどうしようもなくやさしくて、また苦しくなる。
「どうして、そう思うの?」
問いかけも、責めるような調子はなくて。
ただ、ちゃんと答えを待ってくれているのがわかった。
「……だって……わたしの力は、呪力じゃないって……」
「自分の力なのに、わたしにもよくわかんないんです」
一度口にしたら、もう止まらなかった。
「たまたま……あの時は、子供を助けることができたけど……」
「でも次は……誰かを傷つけちゃうかもしれない。自分でも気づかないうちに……」
ぎゅっと制服の裾を握りしめた。
「……自分のことなのに、自分が……こわいんです」
言い終えた瞬間、目の奥が熱くなっていく。
本当は、こんなこと言いたくなかった。
でも、ずっと飲み込んできた不安だった。
少しの沈黙を置いて、先生が口をひらいた。
「確かに、君の力は呪術界じゃ“異物”扱いだね。特にうちの上層部のジジイ連中はそういうのが嫌いでさ」
淡々と、でも嘘がない。
だからこそ、胸に突き刺さる。