第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
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春の空気が、まだ少し冷たい朝だった。
東京都立呪術高等専門学校の正門前──
その門の前で、これから自分が入学することになる学校の表札を眺めた。
(……ほんとに、ここに来てよかったのかな)
自分で決めたはずなのに、胸の奥がざわつく。
表札に刻まれた校名をじっと見つめながら、呼吸が少しだけ浅くなる。
「おっはよ〜」
いきなり背後からかけられた声に、肩がびくっと跳ねた。
振り返ると、目隠しをした長身の男の人が門の奥から歩いてきていた。
片手をひらひらと振っている。
「お、おはようございます。五条……先生」
「制服似合ってるじゃん。僕がカスタムしただけあるね?」
さらっと言われて、思わず顔が熱くなる。
制服は、高専の黒い仕様。
スカートはぴたりと脚に沿うタイトな形で、ジャケットも妙にラインがきれいだった。
初めて袖を通したとき、少しだけ照れくさかったけど。
まさか、先生がカスタムしたなんて聞いてない。
「さ、校内を案内するよ」
五条先生が先に歩き出し、わたしも慌ててその後ろにつづく。
目隠しのせいで表情はわからないけれど、
その背中はどこか軽やかで、わたしとは違う世界を知っているように見えた。
(この人が、私の担任の先生)
(男の先生……なんか、ちょっとだけ、緊張するな)
高専の校舎と敷地をひと通り案内されたあと、先生は寮の建物まで連れてきてくれた。
木造の扉を開けた瞬間、ふわっと新しい木の香りがした。
部屋には必要最低限の家具とカーテンだけが、整然と置かれている。
「ここが君の部屋。風呂とトイレは共用だけど、家具は新品、日当たり良好、防音そこそこ。……あと夜中にホームシックで泣いても大丈夫」
「な、泣きませんよ!」
即答したら、先生がくすっと笑った。
……なんだか悔しい。
だって、図星だったから。
一人暮らしなんて初めてで、不安じゃないわけがない。
そんな顔、してたのかな。