第7章 「残るのは、君だけ」
優太や悠仁の時は、死刑を本人が受け入れるなら、それは仕方がないことだと思った。
でも、は違う。
胸の奥で、その想いがゆっくり形を取っていく。
ふと、遠い記憶がよみがえった。
傑の背中が、遠ざかっていったあの日。
指先から零れ落ちるように、何もかも守れなかったあの痛みを――もう二度と味わいたくない。
――死なせたくない。
――生きていてほしい。
――僕を置いてかないでほしい。
ただ、それだけ。
それだけが揺るがない。
それはただの保護でも、教師としての責務でもない。
もっと原始的で、もっとどうしようもない感情だった。
その答えに辿り着いた瞬間、口元が勝手に緩む。
ずっと胸の奥にあった苛立ちも焦燥も、一つに溶けて熱になる。
「……な、何がおかしいんですか」
訝しむ声を上げた。
五条は一歩詰め、ためらいもなく抱き寄せた。
逃げ場を与えない力で、腕の中に閉じ込める。
不意を突かれたが、目を見開き、五条の顔を探す。
「せ、先生……っ」
戸惑いが震えを伴って声になる。
答えは返さない。
ただ、頬に手を添えた。
掌から伝わる体温が、ひどく遠く感じる。
――この距離を、ただ埋めたかった。
視線が交わる。
黒い瞳の奥で、戸惑いと恐れが揺れている。
それでも、もう引き返すつもりはなかった。
一瞬だけ息を止める。
そして次の瞬間、唇に触れた。
柔らかく、驚くほど冷たい。
その感触が舌の奥まで電流のように走る。
触れたのはほんの刹那――なのに、世界の音がすべて遠のいた。