第27章 「花の匂いは誰のもの**」
「昨日みたいに可愛く言ってよ。『先生にめちゃくちゃにされるのが一番好きで、もう先生なしじゃいられない身体になっちゃいました』って」
「そんなこと一言も言ってませんけどっ!?」
信じられない捏造。
先生は「えー? 言ってたじゃん」と笑って、録音しようとスマホを向けてくる手を全く下ろそうとしない。
「早く言わないと、の可愛い喘ぎ声、録音するよ」
そう言って、先生がスカートの中に手を入れようとした、その時だった。
――ヴーッ、ヴーッ。
スマホの画面が明るく光った。
画面に表示されたのは、伊地知さんの名前。
先生はそれを見た瞬間、あからさまにチッと舌打ちをして、通話ボタンを押した。
「……はいはい、何」
その声はこれ以上ないくらい不機嫌で、低くドスが効いていた。
「僕が今どれだけ大事な取り込み中か、もちろんわかっててかけてきたんだよね? 伊地知ぃ」
『ひぃっ、申し訳ありませんっ!』
伊地知さんの悲鳴が、ここまで聞こえてくる。
(助かった……ナイスタイミングです、伊地知さん……!)
伊地知さんには悪いけど、電話が来なかったらどうなっていたことやら。
先生が電話に意識を向けている隙に、私はそろそろと身体を動かした。
このままだと、何をされるかわからない。
先生の下から抜け出そうと、片肘をつく。
(今のうちに……)
けれど、先生は空いている手で私の腰をあっさり押さえ込んだ。
ちらりと向けられた蒼い瞳が、逃げちゃダメと言っている。
そのまま、手の甲で私の頬をすりすりと撫でてきた。
さっきまであんなに意地悪だったのに、ひどく甘い手つき。
(こんなふうに触れられたら、離れられないよ……)
仕方なく大人しくしていると――
電話越しに何かを聞いていた先生の顔が、すっと変わった。
そこにいたのは、もう私をからかう恋人じゃない。
張り詰めた、呪術師の横顔だった。
「……Re:bloomが?」
その名前に、心臓がどくんと大きく鳴った。
先生はスマホを耳に当てたまま、私に視線を向ける。
蒼い瞳の奥に、冷たい怒りのような光が揺れていた。
「……今回は、死体からじゃない」
「生きてる人間から、花が咲いたって」
♦︎第27章 了♦︎