第27章 「花の匂いは誰のもの**」
呼吸が落ち着いてきた頃、先生がゆっくりと腰を引いた。
私の中から先生が抜けていく感覚に、思わず指先に力がこもる。
すると、先生がまた首筋で、すんと息を吸い込んだ。
「……今は、石鹸の匂いはしないかな」
その一言で、さっきまで熱でいっぱいだった頭が、少しだけ冷える。
石鹸じゃないなら――
じゃあ、今の私は何の匂いがしているんだろう。
頭の中に、ふっと悠蓮のことがよぎる。
「じゃあ……花の匂いってことですか?」
「ううん。はね。汗かくと、甘酸っぱい……えっちな匂いする」
「……っ!」
え、えっちな、って……
どんな匂い!?
引いていきそうだった顔の熱が、一気にまた跳ね上がる。
「何それ、どういうことですか……っ」
「だから。花の匂いなんて、全然しないよってこと」
先生の唇が、首筋にほんの一瞬だけ触れた。
そして、その場所を確かめるみたいに見下ろして、少し目を細めた。
「この匂いを嗅いでいいのは、僕だけだからね。わかった、?」
なんだか、絶対に「はい」と言わなきゃいけないような空気を感じる。
汗かいた時の匂いなんて、普通嗅がせたくないけど……
「……う、うん」
よくわからないまま、私はこくっと頷いた。
先生は満足そうにふっと笑うと、身を起こした。
そのままテーブルへ手を伸ばし、置いてあったスマホを手に取る。
「あ、そうだ。録音するから」
「……録音?」
「昨日、電話で言ってくれたでしょ? 『先生かっこいい』って」
えっ、あれ本気なの!?
昨日の夜。
電話越しだからって安心して、つい口走ってしまった正直な自分の気持ち。
「ほら、もう一回言って?」
画面を操作しながら、先生がスマホを私の口元へと近づけてくる。