第23章 「可惜夜に眠る 後編①」
まだ朝日が完全に上がりきらない時間。
合宿所の敷地を抜けて、人気のない坂道をひたすら走っていた。
靴の裏がアスファルトを蹴る音だけが、耳に響く。
汗が目に入って、視界が滲む。
でも、足を止めることはできなかった。
息が苦しい。
肺が焼けるみたいに熱い。
なのに、頭の中だけがやけに冴えていく。
『腹くくれ。……じゃねぇと、守りたいもんも守れねぇぞ』
真希さんの声が、頭の中で繰り返される。
(守りたいもの)
――わかってる。
いつまでも逃げてるわけには、いかない。
『誰かを守れるような、そんな……』
『先生と同じ、“呪術師”でありたい』
……ほんと、何言ってんだろ、私。
守るどころか、大切な人たちを傷つけて。
差し出された手からも逃げて。
自分の傷だけ抱えて、世界に背を向けて。
それで、先生と同じだなんて……
『呪術師をやめてもらう』
私を完全に突き放した、先生の蒼い目が瞼に浮かんだ。
(……っ)
さらに強く地面を蹴った。
身体を限界まで痛めつければ。
息ができなくなるくらい走れば。
頭の中のぐちゃぐちゃな感情も、全部空っぽになると思ったのに。
走っても、走っても。
振り切れない。
(……私、いま何から逃げてるの)
わからないまま、ただ足だけが勝手に前へ出る。
長い坂道を上り切ったところで、足がもつれるようにして止まった。
荒い息を吐きながら、顔を上げると――