第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
(呪術の理から外れてる……って、なに?)
そう言われるほど、変なことをしたんだろうか。
でも、それが“悪いこと”なのか、“危ないこと”なのか、
それとも“特別なこと”なのか。
(わたしって、一体……?)
足元がぐにゃりと歪んで見えた。
座っているはずなのに、まるで地面ごと傾いていくみたいで。
その時、ガチャリと扉が開いた。
「お疲れサマンサ~」
のんびりとした声。
黒い目隠しをつけた、背の高い男の人が入ってきた。
(……誰?)
目隠しに押し上げられた白髪が、ふわりと上に流れていた。
視線は隠れているのに、まっすぐ“自分だけ”を見てくるような錯覚がした。
(わ、背高い。……前、見えてるのかな)
なんか、夜蛾学長とは違う圧を感じる。
髪白いし、外人さん?
すると、夜蛾学長がため息をつきながら、
「遅いぞ、悟。8分遅刻だ。その責めるほどでもない遅刻するくせ直せと言っただろ。」
「責めるほどでもないなら、責めないでくださいよ。」
そんなやりとりを交わしながら、その人はふいに私の前へやってきた。
しゃがみ込んで、じっと顔を覗き込んでくる。
(ひぇっ、近いっ……)
息が止まりそうになる。
至近距離すぎて、目も合わせられない。
なのに、見えないはずの視線が刺さる。
まるで、心の奥に手を突っ込まれたみたいに。
「へぇ、君が噂のね。はは、ほんとだ。ウケるね」
(……どこが、ウケたの?)
思わずツッコミたくなる。
(え、わたし、なんか変な顔してた? 寝癖ついてた?)
なんなんだこの人。距離感が変。
その人はそのまま椅子に腰を下ろし、長い足をゆったりと組んだ。
片肘を背もたれにかけて、まるでこっちの様子を測るように言った。
「なんで、こども助けたの? 置いて逃げればよかったのに」
(……なんで、だろ)
改めて言われると、よくわからない。
咄嗟で、足が動かなかったってのもあるけど――
でも、それだけじゃなかった。
(……あのとき)
あの子が、こっちを見てた。
必死で、怖くて、泣きそうな顔で。
それが、なぜか自分と重なって見えた。
「……私だったら、見捨てられたら嫌だから」
声がかすかに震えた。
でも、それが今の自分の“本当”だった。