第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
ガラッと扉を開ける音が、やけに響いた。
東京都立呪術高等専門学校――
面談室の空気は、ひどく静かだった。
目の前の大人たちは何も言わず、ただ私をじっと見ている。
(やっぱり……来なきゃよかったかも)
今日は“新しい学校の面接”ということで、ここに呼ばれた。
私服じゃ浮きそうな気がして、中学の制服を選んだけど……それでも場違いな気がする。
知らない場所。知らない人。
それだけで、身体がこわばってしまう。
「そんなに緊張するな、とって食う訳じゃない」
優しく声をかけてくれたのは、あの時の白衣の女の人
たしか、家入さん……だったよね。
促されて、おそるおそる椅子に腰を下ろす。
家入さんの隣に座っていたのは、黒い制服に身を包んだ、いかにも偉そうな男の人だった。
サングラス越しでもわかる、鋭い空気。
腕を組んで、ずっとこっちを見ていた。
(……う、こわい……)
ああいう人に「どうしてうちの学校に入りたいのか」とか聞かれたらどうしよう。
下手なこと言ったら、怒られそう。
なに話せばいいのか、まだ自分でもわかってないのに――
「私は夜蛾正道。ここの学長をしている」
声は低くて落ち着いてるのに、なんか……すごい圧。
「君のような例は、正直初めてだ。呪霊を祓ったらしいな?」
(……じゅ、れい?)
ぽかんとした顔になっていたのかもしれない。
横から、家入さんが助け舟を出してくれる。
「あの夜、あなたが駅前で遭遇したやつよ。あれが呪霊」
「あ……」
言われて、思い出す。
塾の帰り道、駅前の横断歩道。
見知らぬ子どもが“何か”に襲われそうになって――
気づいたら、自分の手から光が生まれていた。
「……でも、私、何をしたのかはわかりません。あの光が……何だったのかも」
夜蛾学長が、手元の資料に目を落としながら言った。
「呪いは、呪いでしか祓えない。――本来なら、な」
「けど、君の力は……呪力ではない。呪術の理から外れている」
(……“力”? わたしが……?)
なんだか、別の人の話みたいだった。
呪霊を祓ったって言われても、実感なんてない。
だって怖くて、ただ手が勝手に動いただけ。