第20章 「君の心をさらったその日から**」
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風呂場の扉を開けると、ふわっと湯気がこぼれた。
ほんのり柑橘っぽい香りがする。
入浴剤か。
中では、が湯船の隅でこぢんまりと座っていた。
背中を少し丸め、肩をすぼめている。
お湯は入浴剤で白く濁っていて、の肌の輪郭はよく見えないけれど――
長い髪は後ろでひとつにまとめられていて、白いうなじだけが無防備にさらされていた。
「入浴剤入れたの? いい匂いだねぇ」
声をかけると、の肩が小さく跳ねた。
「え、あ……はい」
わずかに視線を泳がせているが、僕のほうは見ない。
顔を湯に沈めるみたいにして、ぎゅっと視線をそらしている。
そりゃそうか。
僕、裸だしね。
どこを見ていいか、困ってるんだろう。
見てもらっていいんだけど、僕は。
シャワーのノズルを捻り、髪と体をざっと流す。
はその間、一度もこちらを見なかった。
見てないふり、なのかもしれないけど。
浴槽の縁に手をかけて足を入れ、ゆっくり腰を沈める。
それと同時に、お湯が浴槽からさざ波のようにあふれた。
と向かい合う形になる。
二人で入るには、決して広くはない浴槽。
僕の体格じゃ、どうしてもスペースが足りない。
膝が、すねが、腕が……身体のどこかが、どうしても触れてしまう。
でも、触れるたびに、の身体がぴくっと跳ねた。
まるで、電気が走ったように。
それが、面白くてたまらなかった。
可愛すぎて、意地悪したくなる。
「狭くない? もう少しこっち来なよ」
「だ、だいじょうぶ……ですっ。ほんとに……っ」
早口で、声がちょっと裏返ってる。
は両腕で自分を囲うみたいに、小さく身をすぼめて、必死に距離を保とうとしてる。
ふーん……あ、そう。
じゃあ、僕のほうから行くね。
僕は手を伸ばし、彼女の細い腕を掴んだ。