第20章 「君の心をさらったその日から**」
(……あの震災で、亡くなったんだよな)
(東北の地震と津波……)
思い出す。
以前エレベーターが地震で止まったとき、が青ざめたこと。
あのときは、ただ「怖いのかな」くらいにしか思ってなかったけど……
そりゃそうか。
あの年齢で、あんな経験してたら――
「……、君のご両――」
そう言いかけた瞬間だった。
「あ、先生。お風呂入りますか?」
の急な提案に、言いかけた言葉が自然と喉の奥で止まった。
「あー……うん。いいの?」
「もちろんです。先生の家に比べたら、狭いですけど。良かったら入ってください」
はそう言って、立ち上がろうとした。
けど、僕は思わず手を伸ばして、彼女の手首を掴んでいた。
(……なんだろ)
言いかけた言葉が流されたせいか。
が、ほんの少しだけ遠くなった気がして。
今はただ、この距離がほどけてしまわないようにって、それだけだった。
「一緒に入る?」
「なっ……!?」
ぴしっ、との背筋が伸びた。
「な、なに言ってるんですか! ここ、実家ですよ!? おばあちゃんだっているし――!」
耳まで真っ赤だ。
ほんと、一瞬で赤くなるな。おもしろ。
「えー? 熊本の温泉でも一緒に入ったし、いいでしょ」
「そそそそそ、それとこれとは違います!」
熊本のときも、最初はこんな感じだった。
あれこれ理由を並べて、必死に抵抗して。
それでも最後は、渋々僕のお願いを聞いてくれた。
部屋の露天風呂に二人で浸かって。
は恥ずかしそうに、ずっと湯船の隅で背中を向けたままだった。
ちらっとこっちを振り返った、あの視線。
恥ずかしさと、緊張と。
それから、ほんの少しだけ混ざっていた“期待”。
あの表情が、どうしようもなく愛しかった。
『せ、先生……あんまり、見ないで……』
そんなふうに言われたらさ。
男は余計に見たくなるって、どうして分からないんだろ。
後ろから抱き寄せたとき、
お互いの濡れた肌が触れて、体温が伝わって。
の身体は、火が灯ったみたいに熱くて。
『……ぁ……』
そんな声を聞いて、止まれるわけがなかった。