第19章 「死に咲く花」
「何があったかわからなかったけど……でも、悠蓮が殺したってことだけは確かだと思う」
自分の呼吸が乱れていくのがわかる。
込み上げるこの感情を必死に堪えていたけれど、気づいたら言葉になってこぼれていた。
「……怖いんです。私も、あんなふうになるんじゃないかって」
「悠蓮のことも、遺体に咲いた花も、諏訪烈のことも……」
一つ一つ挙げるたびに、全部“自分に関係している”という現実が押し寄せる。
「真実を、この目で確かめるって言ったのに……っ」
「覚悟はできてるって言ったのに……っ」
震える身体を、腕で抱きしめるようにして抑える。
言えば言うほど、自分が弱くて情けなくて。
「全然、できてませんでした……」
「ちょっと目の前に突きつけられただけで、こんなに……」
悔しくて、悲しくて、恥ずかしくて。
でも、一番強くあったのは――
「……こんな自分が、やなんです……っ」
涙が頬を伝って落ちた。
高専に入って、少しは強くなれたと思ってた。
花冠の魔導を覚えて、人を助けられるようになって、
みんなの足を引っ張らないようにって、必死で追いつこうとしてた。
……でも、それってただの思い込みだったんじゃないかって、思い知らされる。
私はまだ、何も変われてない。
たった一つ、真実に触れただけでこんなに崩れて。
ほんの一瞬の映像で、こんなに怯えて。
強くなれたなんて、どの口が言えたんだろう。
(……ああ、もう……)
泣いちゃダメだって思うのに、どうしてもこぼれてくる。
隣で、先生は変わらず黙っていた。
(……きっと、呆れてる。こんな弱い自分に)
顔を上げられなくて、ただ袖口を目に押し当てる。
涙を拭いてるのか、隠してるのか、自分でもわからない。
すると、頭の上から声が落ちてきた。
「、京都で僕が言ったこと……覚えてる?」
思わず顔を上げると、
そこには焦らず、見放さず、ちゃんと向き合ってくれる先生の顔。
「僕も一緒に確かめるよって、言ったでしょ」
「怖いなら……一人で全部抱え込む必要なんて、ないんだよ」
一語一語が、まっすぐに胸に届いてくる。