第19章 「死に咲く花」
夕方の熊本空港は、人の気配のわりにどこかがらんとしていた。
ガラス越しの空は、日暮れに染まりかけていた。
滑走路の先には、点々と灯りが並んでいる。
ラウンジのソファ席。
私の隣には新田さん。
向かいには、先生と七海さんが腰を下ろしている。
新田さんがテーブルにタブレットを置き、画面を操作しながら私たちが得た情報について話していた。
「……以上が、現場での聞き取りと調査結果っす」
画面には、例の通販サイト《Re:bloom》のトップページ。
新田さんが指でページをスクロールする。
そこには、例の言葉。
“終わらない苦しみを、還したい方へ”
「いかにもだねぇ」
先生から乾いた笑いがこぼれる。
その手元には、空港の売店で買ったフルーツ大福の詰め合わせ。
中身はもう半分以上なくなっている。
その隣で七海さんが、画面を睨むように見つめながら静かに言った。
「問題は、その部屋の中に何があるか……」
先生が大福を口に運びながら、肩をすくめる。
「面白動画がみられるワケでもなさそうだしね」
「それに、“還す”なんて言葉、の力のことを知ってるやつじゃなきゃ、そうは言わないはず」
新田さんが画面を閉じ、タブレットをバッグに収めた。
「高専に戻ったら、IT関係に強い知り合いに依頼して、ログや構造を調べてもらう予定っす」
「それと……遺体は高専の医務棟に送る手配は済ませてありますっす」
「了解。硝子には、僕から連絡入れとくよ」
そう言って、先生はポケットからスマホを取り出すと、画面に目を落としながら指を動かし始めた。
おそらく、硝子さんに早速連絡を入れているのだろう。
新田さんは少しだけ間を置いてから、ちらりと私を見た。
「いやぁ、最初はご遺族が検屍を拒否されてたんですが……」
「さんが、説得してくれて。ほんと、助かったっす」
「わ、わたしは……大したことなんて、何も……っ」
慌てて手を振って否定する。
そんな私を見て、先生がふっと口元を緩めた。