第5章 「境界に口づけて」
「野薔薇ちゃん、行こう!」
そう言って、野薔薇の手を強く掴む。
「え、ちょ、ちょっと?」
戸惑う野薔薇を半ば引きずるようにして、教室の中へ駆け込んだ。
背後で五条が「おーい?」と呼びかける声がしたが、聞こえないふりをした。
(……また、逃げちゃった)
心臓が耳の奥で鳴り響く。
手のひらは汗でびっしょりだった。
教室の中に入ると、ようやく足が止まった。
それでも心臓は、さっきから暴れ続けている。
「ちょっと、」
掴まれていた手を振りほどき、野薔薇がの前に立つ。
「昨日、何があったの?」
真っ直ぐな視線。
逃げ場がない。
「……な、何も……」
視線を逸らし、かすれた声で答える。
「嘘。先生となんかあったでしょ」
野薔薇の言葉に、はびくりと肩を揺らした。図星すぎて、目を合わせられない。
その沈黙を見て、野薔薇の顔色が一気に変わる。
「……ちょっと待って。まさか――」
ぐい、との肩を掴む。
「もしかして、あの目隠しに呪具庫で襲われたとか!?」
「ち、ちがっ……!」
「いや、ありえるでしょ!? あの人、見た目チャラいし非常識だし――」