第4章 「触れてはいけない花」
耳元で落ちた声。
問いかけというより、答えを引き出すための包囲網。
は呼吸が詰まる。
逃げたかったのに、動けなかった。
五条の声が近すぎて、思考がうまく働かない。
(……どうして知ってるの……)
「……僕に会いたかったんじゃないの?」
軽く告げられたその一言が、胸の奥を鋭く貫いた。
「っ……!」
図星だった。
顔が熱を帯び、一気に視界が滲む。
「先生には関係ないっ……!」
掴まれた手を振り払い、声を荒げて叫んだ。
不意の反発に、五条がわずかに目を見開く。
庫の中に重い沈黙が落ちた。
は唇を噛み、涙が溢れそうになるのを堪えきれなかった。
「……ご、ごめんなさい……」
かすれた声でそう告げると、五条を見ないまま駆け足で庫を飛び出した。
「!」
背後から呼び止める声。
けれど、振り返ることはできなかった。
胸が苦しくて、息が詰まる。
――走らなきゃ。
ただその一心で、校舎を駆け抜ける。
角を曲がった先で、虎杖と釘崎、伏黒が歩いてきた。
「あ、。ちょうど探してたと……こ」
虎杖が声をかけるが、は答えられない。
彼らの視線すら痛くて、ただ走り抜けた。
「……なに、どうしたのよ」
釘崎が眉をひそめる。
伏黒も黙ったまま、が去った方を見つめていた。
――誰にも見られたくない。
――誰にも触れられたくない。
人気のない中庭の隅に辿り着いたとき、足が止まった。
息が荒く、肩が上下する。
もう走れなかった。
(……私、なにやってるんだろう……)
胸の奥がじんじんと痛む。
涙が止まらなかった。