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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第4章 「触れてはいけない花」


(……拒絶してしまった)


自分の吐き出した言葉が、耳の奥で何度も反響する。
驚いていた。
あの人は、ただ心配してくれただけなのに。


(……先生は、何も悪くないのに)


しゃがみ込んだ膝が震えて止まらない。
涙が地面に落ちて、小さな染みを作っていく。


目を閉じれば――さっきの感覚が鮮明に蘇る。


五条の腕に包まれたときの、広くて温かい体温。
耳元に落ちた、低く落ち着いた声の響き。
すぐ近くで感じた呼吸。
微かに香った、洗い立ての服の匂い。


掴まれていた手首が、まだじんじんと熱を持っている。
は震える指先でそこをなぞり、呆然と見つめた。




「……好き」



気づいたときには、もう声になっていた。


自分でも驚くほど、かすれていて、小さかった。
でも、その一言が、全身を貫いた。


涙が新しく溢れて止まらない。
顔を覆って、声も出せずにただうずくまる。



「……好き……」



口からこぼれるたび、涙が新しく溢れて止まらなかった。
もう止められない。
何度も、何度も呟くことでしか、この胸の苦しさを吐き出せなかった。


ふと顔を上げると、校庭の隅に残る桜が目に入った。
春の終わりを告げるように、わずかに残った花びらが風に舞っている。


一枚の花びらが、の肩にそっと落ちた。

――あのとき、五条が取ってくれた花と同じ。


指先でそれをそっと摘み上げると、胸の奥がまたきゅっと締めつけられた。



「……先生が、好き……」



震える声で、もう一度呟く。
春の終わりの風が、返事のようにの髪を揺らした。


***


が駆け出していった庫の入口を、五条はしばらく見つめていた。


床に散らばった刀や呪具を片手で戻しながら、誰にも聞こえない声でぽつりと呟く。



「……泣いてた?」



答えは返らない。
重い鉄扉を閉める音だけが、庫の中に響いた。
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