第16章 「心のままに、花が咲くとき」
そんな私の胸の内を見透かすように、先生がふっと息を吐いた。
「まぁ、でもさ」
声の調子が少しだけ軽くなる。
「そいつのおかげで、って言うのは癪だけど――
が“覚醒”できたっていうなら、今はよしとしよう」
先生はいつもの飄々とした笑みを浮かべながら、言葉を継ぐ。
「誰かの思惑だろうがなんだろうが、最終的に動いたのは“自身”。自分の意思で力を使って、その手で呪霊を“送った”」
「――それが事実でしょ?」
じんわりと胸が熱くなる。
自分の選択を信じてくれる人がいる。
たったそれだけのことなのに、どうしようもなく心が救われていく気がした。
どんなに怖くても、どんなに迷っても。
この人の言葉があれば、私はきっと前に進んでいける。
気づけば、涙が出そうになっていた。
でもそれを見せたくなくて、ぎゅっと目を閉じる。
そのとき――
先生がそっと手を伸ばしてきた。
指先が私の髪にやさしく触れる。
額にかかった髪をそっと耳にかけて――まるで、なでるように整えてくれる。
その仕草に安心感とも、照れともつかない、
やわらかな熱が頬を染めていく。
そんな私の様子を見て、先生はいたずらっぽく目を細めた。
「……そういえば、もう触れても記憶は見えないの?」
私はこくんと頷いた。
「はい。今は……力が、落ち着いてるみたいで……。自分から“見よう”と意識しない限りは、大丈夫みたいです」
「……そっか」
先生はそう言って、小さく息をついた。
そして、どこか言いづらそうに視線を逸らす。
「恵から聞いたよ。記憶のこと」
(……伏黒くんが?)
「……人に言えなくて、ずっと辛かったでしょ」
「気づけなくて、ごめん」
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
私も、言わなきゃ。
「……私のほうこそ、ごめんなさい」
「先生のせいじゃないです。私が、言えなかっただけで……」
視線を落とし、手のひらをぎゅっと握りしめる。
「記憶が見えること……ずっと、怖くて」
思い出すだけで、胸が苦しくなる。