第16章 「心のままに、花が咲くとき」
諏訪烈はスマホを見下ろし、ふっと鼻で笑う。
「……本当に、あの男と似ていて」
小さく呟いたあと、吐き捨てるように言葉を続ける。
「――反吐が出る」
言い終えてから、しばし無言のままスマホを見つめる。
その目には冷えきった嫌悪だけが静かに滲んでいた。
そして諏訪烈はスマホを伏せ、の頬をもう一度そっと撫でる。
その時、の瞼がわずかに震えながら開く。
「……す……われ……つ」
かすれた声がの唇から漏れた。
焦点の合わない瞳が諏訪烈を見上げていた。
諏訪烈は一瞬だけ目を細め、そしてにこりと笑う。
「……大丈夫。僕が助けてあげるから」
子守唄のような声でそう囁くと、の瞼は再び閉じられていく。
諏訪烈はそっと顔を近づけ、静かに額に口づけた。
「悠蓮……君が咲かせる花は、いつだって――」
そのまま手を伸ばし、のまわりに咲いていた白い光の花に触れる。
淡く、繊細に揺れていた小さな花を、彼はひとつ摘み取った。
「……綺麗だ」
掌にのせたそれを、しばし静かに見つめる。
夜の帳が彼の姿を呑み込んでいく。
誰もいない港町に、ふたたび波の音が静かに響いた。