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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第15章 「その悔いは花冠に変わる」


女の子は、ぱっと目を見開いた。

 

「……それ!」

 

声が少しだけ弾んだ。

 

「わたしのっ! お姉ちゃん、ありがと」

 

彼女の顔がぱぁっと明るくなって、まっすぐ私の手元を見つめている。



「……はい、どうぞ」



私は小さく笑って、女の子に手渡した。
彼女はそっと両手でそれを受け取って、胸にぎゅっと抱きしめる。



「ありがとう、お姉ちゃん……」



それだけで、ほんの少しだけ空気があたたかくなったような気がした。


(お母さんが買ってくれたって言ってたもん、見つかってよかった……)


安堵で胸を撫で下ろす。



「……でも、こんな時間にここにいるの危ないよ」



私は少し表情を曇らせて、そっと問いかける。



「お父さんとかお母さんは? 一緒に来てるの?」



女の子は、ふと視線を落とした。
貝殻のキーホルダーを指先で撫でながら、小さな声で言う。

 

「……いないの。ふたりとも、帰ってこないの」

 

静かな波の音が、どこか遠くでさざめいた。
私は思わず、息をのむ。
 

(……いない? “帰ってこない”?)

 
その言葉が、胸の奥でひっかかる。



「……ふねに、乗ってたの」



ぽつりと、女の子がつぶやく。



「それでね……ふたりとも、帰ってこなかったの」

 

風が、ふわりと吹いた。
女の子の髪が揺れて、胸に抱いたキーホルダーが小さく触れ合って鳴る。


(この子のご両親……きっと、船の事故で――)

 
胸の奥がきゅっと痛くなる。



「……そっか」



私は静かに口を開いた。



「帰ってこない人を、ずっと待ってるのって……つらいよね」

 

そう言ったとき、女の子はゆっくりと顔を上げた。
不思議そうにきょとんと私を見て、小さく首を傾ける。



「お姉ちゃんも……誰か、待ってるの?」



その問いに、私は少しだけ微笑んだ。



「うん……わたしもね、お父さんとお母さん、帰ってこないの」

 

言葉にすると、少しだけ胸の奥がちくんとした。
でも、不思議と涙は出なかった。
この子の前だから、なのかもしれない。
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