第3章 「眠りの底で、目覚める」
「……あなたは、誰なの?」
の声は震えていた。
女は微笑んだ。
そして、一歩踏み込み、の頬に手を添えた。
『……おまえはすでに知っているはずだ』
吐息が唇をかすめる距離。
『あの男に触れられたとき、おまえの内側が熱を帯びただろう?』
『――嬉しかったか?』
その言葉が心臓を掴む。
『あの手の温度を、まだ覚えているはずだ。怖かったか? それとも――もっと欲しいか?』
は無意識に首を振った。
否定したいのに、声が出ない。
『隠さなくていい。あの男の声に救われたのだろう? あの青い瞳に、縋りたくなったのだろう?』
指先が顎から首筋へと滑り落ち、動きを封じられる。
『おまえはまだ目覚めていない。けれど、その熱が育つほど――おまえは私とひとつになる』
女は耳元で囁いた。
『あの男も、おまえの中の熱もすべて呑み込め。それがおまえの“目覚め”だ』
その言葉が呪いのように甘く絡みつき、
が叫ぶ前に、視界は闇に飲まれた。
「――っ!!」
は椅子から飛び起きた。
(……ここは……? 私、まだ……)
息が荒い。
心臓が、胸が張り裂けそうなほど脈打っている。
(……夢?)
けれど、夢の女がまだ後ろにいる気がした。
「いや……いや……!」
がたん、と机を倒し、ふらつく足で後ずさる。
頭の中で、あの女の声がこだまし、視界が揺れる。
体が勝手に逃げようとした――その瞬間。
背後から、強く抱きしめられた。