第12章 「極蓮の魔女」
先生は、一瞬だけ驚いたように瞬きをした。
けれどすぐに、微笑みながらそっと手を伸ばしてくる。
「……、ほんと……」
「いちいち、可愛すぎて困るんだけど」
笑ったその顔が、どこかずるくて優しくて。
唇がすぐそばまで寄ってきて――
と思ったら、わたしの頬にちゅっと音を立ててキスを落とす。
「……ねぇ、今の、誘ってるってことでいいの?」
「そ、そういう意味じゃ……っ!」
わたしは思わず声を上げた。
なのに、先生はわかってるって顔で、ふっと笑う。
そして指先がわたしの手を撫でるように滑っていく。
「――そんなこと言われたら」
「もう、止められないよ?」
わたしを見下ろす先生の目は――
もう、優しいだけじゃなかった。
本気で“わたし”を求めている、男の人の目だった。
蒼い瞳の奥に、熱が灯ってる。
鼓動が、また跳ねる。
目が合ったまま、逸らせなくなった。
その熱に焼かれて、思考なんてもう残ってない。
唇が、勝手に動いていた。
「……はい」
かすかに震える声だったけど、
ちゃんと、頷いた。
先生の手が、わたしの指をそっと包み込む。
ぴたりと重なった掌のぬくもりが、心の奥まで伝ってくる。
(――もっと、触れてほしい)
その願いが、胸の奥でゆっくりと脈打った。
怖さよりも、渇きのような想いが勝っていた。
この手が、わたしをさらっていくなら――
どこまでも、連れていってほしいと思った。
ただ、夜露に濡れた花びらが、そっとほどけるように。
わたしは、この夜に身を委ねていく。
剥がれて、溶けて、まっさらになった先に――
どんな花が咲くのかも知らないまま。