第12章 「極蓮の魔女」
川床をあとにして、
ふたりは夜の京の町を、ゆっくりと歩いて戻ってきた。
やがて、五条家の門が見えてくる。
明かりの灯る玄関先には、榊原さんが待っていた。
「お部屋のご準備が整っております。どうぞ、こちらへ」
わたしたちは、静かにその背中についていく。
廊下を抜け、奥へ、奥へ。
かすかな香木の匂いが漂う、古びた木造の廊下。
やがて、ひとつの襖の前で足が止まる。
榊原さんはゆっくりと扉を開け――
その先には、整えられた畳の間。
布団が二組、ぴたりと並んで敷かれていた。
(……え……)
言葉を失って足が止まる。
わたしは、即座に隣を見上げる。
先生は特に気にした様子もなく、
すたすたと部屋の中へ入っていく。
「……せ、先生……!?」
振り返り、榊原さんに声をかける。
「えっと……その……一緒の、部屋なんですか……?」
榊原さんは表情ひとつ変えず、静かに一礼する。
「はい。悟様のご指定通り、こちらに」
「……し、指定?」
「どうぞ、様も遠慮なさらず、おくつろぎください」
わたしは、その場に立ち尽くす。
(まって……これは、もしかして――)
(遠慮せずと言われても……)
畳の間に、ぴったりと並べられた二組の布団。
なんとなく想像はしていたけれど、
こうして現実を突きつけられると、心臓の音が急にうるさくなる。
足が床に縫いとめられたように動けない。
そのとき。
すっと、目の前に先生が現れた。
先生はわたしの手を、そっと取った。
指先が、触れ合う。
心臓の音が、ひときわ大きく響いた。
「ほら、何してんの? 早く入りなよ」
「えっ、えっ……ま、まって、こ、心の準備っていうか……っ!」
テンパって目を白黒させていると、背後から落ち着いた声が飛んできた。
「悟様」
「お風呂の支度も整っております。あとは、何かございましたらお呼びください」
「うん、ありがとー。助かるよ」
先生は榊原さんの方に軽く手を振った。
そして、わたしの手を引いたまま、
ためらうことなく畳の間へと足を踏み入襖を閉めた。