第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」
《五条先生》
目の前で、心臓が爆発しそうになる。
(な、なんで今……!?)
動悸が止まらないまま、はそっとスマホを握り直した。
タイミングが良すぎて、まるで見られていたような気がして、
彼の“六眼”が頭をよぎる。
(ち、違うよね……? ただの偶然……だよね……?)
そっとメッセージを開いた。
『土曜日7時、正門集合ね。寝坊しちゃダメだよ?』
その一文に、思わず小さく笑みがこぼれる。
けれど、その直後――
ピロンッ
また通知音が鳴った。
LINEの吹き出しが、ぽん、と画面に浮かぶ。
『早く土曜日にならないかな。僕すごい楽しみなんだけど』
その一言で、胸の奥がじんわりと熱くなる。
絵文字も顔文字もない、シンプルな文章なのに。
そこに込められた気持ちが、まっすぐに伝わってくる。
(……わたしも、楽しみです……)
返信しようとした指先が、ふと止まる。
(でも、これ……送ったら、もっと緊張しそう……っ)
ベッドの上で、枕に顔をうずめたまま転がる。
画面の明かりが、布団の中をぼんやり照らしていた。
(先生と一緒に……)
(京都に行って、悠蓮のことを調べて……)
(……それだけじゃなくて、きっと――)
心の中で、“何か”がそっと芽吹く音がした気がした。
次の土曜日。
京都で、先生の隣を歩く自分。
(――どんな時間が待ってるんだろう)
胸の奥で、未来のページが静かにめくられていくようだった。