第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」
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「……京都!?」
思わず、声が裏返った。
聞き間違いじゃないかと、慌てて先生の顔を見る。
けれど彼は、いたって真面目な顔でにっこりと笑っていた。
「そ。京都にある僕の実家、行ってみようか?」
その言葉に、心臓が跳ね上がる。
(い、いま、“実家”って……!?)
先生の実家。
つまり――五条家。
頭の中で、見たこともない立派な和風屋敷とか、畳の間に正座してる自分とかが次々に浮かんでくる。
「え、え、ちょっと待ってください、なんで急にそんな話に……!?」
焦る私に、先生はおどけたように肩をすくめ――
でも次の言葉は、少しだけ真剣だった。
「……もしかしたら、悠蓮に関する記録が、うちのどこかに残ってるかもしれないんだよね」
「えっ……五条家に、ですか?」
思わず聞き返すと、先生は頷いた。
「前にが乗っ取られたとき、悠蓮が僕を見て言ったんだ。“あの男の血か”って」
「それってつまり――当時の五条家当主を知ってたってことになる」
「……二人は知り合いだった……」
私は小さく呟いたきり、言葉を失った。
(悠蓮が……五条家と……?)
そんな繋がり、考えたこともなかった。
思考が追いつかず、ただ先生の顔を見る。
すると、彼はふっと笑って――
「ね、気になるでしょ?」
そう言いながら、指先でわたしの額を軽く突いた。
「うちの実家、資料は山ほどあるしさ。
古文書に巻物に、書庫に蔵に……ま、探すのは骨が折れるけど――」
そう言いかけて、先生は私の目をまっすぐに見た。
「悠蓮が言っていた”送り出す”の意味。
その答えが見つかるかもしれない」
その言葉に、胸がぎゅっと音を立てる。
(もし、何かわかるんだったら……)
「……行きたいです、先生」
(怖い。でも――知りたい)
悠蓮のことも。
この力のことも。
そして、自分が“魔女”と呼ばれる理由も。
「ちゃんと、向き合いたいから……」
もう、知らないままではいられない。
「わたし……五条家に、行きたいです」