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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」


「……ごめん、怖かった?」



そっと問いかけたけど、は何も答えなかった。
ただ、僕の手首を掴んだまま、じっと黙っていた。


(……でも、あれは見事だったな)

(反射速度も力のかけ方も完璧。
 僕の特訓の成果、出てんじゃん――って、違うだろ)


思わず心の中で自分に突っ込んで、ため息をひとつ。


(……バカか、僕は)


彼女の嫌がることなんて、
絶対にしたくなかったはずなのに。


ほんの少し――焦りすぎたのかもしれない。



「……触りてー……」



気づけば、そんな言葉がぽろっと零れていた。


声に出したところで、どうにもならないのに。
だけど、抑えきれない感情があふれてくる。


彼女は、キスも初めてだった。
きっと、その先も全部――
僕が、初めてになる。


そう思うだけで、どうしようもなく嬉しかった。


(……だから、焦っちゃダメだ)


まだ早い。
たぶん、まだ、彼女の準備が整ってない。


気持ちを通わせて、ようやく“恋人”として繋がったのが、
ちょうど1ヶ月前。


それなのに、は今でも、
僕のキスひとつで、まるでゆでだこのように真っ赤になる。


(……失神するんじゃないかって、正直焦るときあるし)


彼女の心を、急がせたくない。


(……待つよ、ちゃんと)


……なんて、自分で言っておいて。


(本当に、僕待てるのかな)


あの唇に触れるたび、
もっと触れたくなる。


あの身体を抱きしめるたび、
壊したくなるほど愛しくなる。


(……の“全部”を、僕だけのものにしたくなる)


それでも――
君が「怖くない」って思えるまで。
君が「大丈夫」って言えるその日まで。


僕はきっと、
何度でも“待てない”自分と闘うことになるんだろう。


視界の青空が、少し眩しく滲んだ。
吹き抜ける風が、さっきの彼女の匂いをかすかに残していく。
甘くて、柔らかくて――
どこか、懐かしい香り。


何の気なしに中庭へと視線を向ける。


整えられた植え込みのそばに、名前も知らない花がいくつか揺れていた。
紫がかった白、淡い桃色、細くしなやかな茎の先に、小さく控えめな花が咲いている。
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