• テキストサイズ

【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第11章 「魔女はまだ、花の名を知らない」


***


の背中が、角を曲がって見えなくなるまで、
じっと、その姿を目で追っていた。



「……ったく」



小さくため息をつきながら、ベンチの背に体を預ける。
青く晴れた空が視界いっぱいに広がった。



「……もうちょいだったのになぁ」



ぼやくように呟いて、
ついさっきまで指先に残っていたぬくもりを、そっと握り直す。


ほんの数センチ。
あと一歩で届いた唇と唇。


閉じられた瞳。
ほんのり染まった頬。
期待と不安が入り混じった、あの顔。


(……キスしてるときの、あの感じが……)


彼女の世界が、僕だけになる。
何も考えられなくなるくらい、ただ僕に、
全部を預けてくるあの感じ――


触れた瞬間、彼女の呼吸も、鼓動も、熱も……
すべてが僕ひとりに向いてるってわかる。


(……あのときだけは、本当に“僕のもの”になる)


彼女の感情も、身体も、心の奥の震えさえも――
全部、ぜんぶ僕に染まっていくあの感覚が、たまらない。


(キスひとつで、こんなに満たされるって……)


正直、過去にいくらでも“キス”なんてしてきた。
場の流れで、関係の一部で、なんとなくの甘さで。
けど――
とのそれは、まるで別物だった。


(……だから、もっと触れたくなる)


……本当は、あの夜に――もっと進めるチャンスがあった


訓練が終わった後、理由なんてなんでもよかった。
を執務室に呼び出して――
彼女がドアを閉めるのを待たずに、腕を引いた。



「え、せんせ――」



言葉の途中で、唇を塞いだ。


もう、我慢できなかった。


小さな体を抱きしめた瞬間、
は一瞬びくっと震えたけど、それでも逃げなかった。


それだけで、心臓が跳ねるほど嬉しくて。


(……もう、の全部をこの手で触れたくて)


胸に手を滑らせて、指先が触れようとした、その瞬間――


ぱしっ、という音がした。



「……っ」



僕の手首を掴んだその手は、
いつものとは思えないほど、鋭くて、速かった。


驚いて見下ろすと、彼女の顔は真っ赤で、
けれど、目だけはまっすぐに僕を見ていた。


(……ああ)


これ以上、まだ触れたらダメなんだって、
その目が、ちゃんと教えてくれた。
/ 442ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp