第2章 「はじまりの目と、最強の教師」
放課後の屋上。
夕陽が、校舎の影を長く引き伸ばしている。
はフェンス際に立ち、コンクリートの手すり越しに広がる朱と藍の空を眺めていた。
模擬訓練の光景が、まだ頭の中で何度も繰り返される。
(……力が暴走した。自分では止められなかった)
呪霊は祓えた。でも、それがどう動いたのか、なぜ反応したのか――説明できない。
そして、仲間を危険に晒したという恐怖が胸に張り付いて離れない。
「屋上にいる女子は悩んでる、って昔から相場が決まってるんだよね」
不意に背後から聞こえた声に、は振り返った。
そこには、目隠し越しに微笑んで、こちらを見る五条が立っていた。
「……先生」
「ま、が来てるかなーって思ったら、ビンゴ」
冗談めかしているのに、不思議と柔らかい声音だった。
五条はの隣に並び、同じ空を見上げる。
「今日のこと、気にしてる?」
は少しだけ間を置いて、静かに頷いた。
視線は夕焼けの空に向けたまま、唇だけが動く。
「……はい。先生は“面白い”って言ってくれるけど……私、怖いです。また暴走して……みんなを危険に巻き込むかもしれないって思うと……」
声がかすかに震える。
それは五条への返事というより、自分の胸の奥にこびりついていた恐怖をやっと吐き出したような響きだった。
五条はしばらく黙って空を見上げていた。
そして、いつもの飄々とした声で、それでもどこか優しく口を開いた。
「……確かに、の力は呪力でも術式でもない。上の連中なら“得体が知れない”って言うだろうね」
ふっと口角を上げて、に目隠し越しの視線を向ける。
「でもさ――今日初めて、僕はそれをちゃんと見た。
綺麗で、温かい力だって思ったよ」
その言葉に、の胸がかすかに震えた。
“得体が知れない”としか言われなかったこの力を、そう表現されたのは初めてだった。
怖いだけのものじゃない――そんなふうに思ってもいいのかもしれない、と胸の奥が少しだけ緩む。