第8章 「この夜だけは、嘘をついて」

唇を押し当てる。
もう一度、深く。
そのまま、下唇を――舌先で、つつくようになぞった。


の身体がぴくりと反応した。
驚いたように目を開きかけて――けれどすぐに、また目を閉じる。
その一瞬の間に、僕を信じようとしてくれているのが、伝わった。


の唇が、かすかに開く。
その許しに、胸の奥が熱くなる。


そっと舌を差し入れる。
まだぎこちない彼女の舌に触れると、の喉から小さな息が洩れた。



「……っ、ふ……っ、んん……」



その声だけで、理性がひび割れていく。
もっと聞きたい。もっと感じさせたい――
そんな欲が、喉元までせり上がってくる。


僕は彼女の腰に回した腕を強く引き寄せ、
もう片方の手で、そっと後頭部を支える。


離さない。
逃がさない。
今だけは――僕のものだと、全身で伝えるように。


舌を絡める。
浅く、深く。
熱を伝え合うように、味わうように、キスを続けた。


の呼吸が次第に荒くなり、
頬がますます紅潮していくのが、目を閉じていてもわかった。


（……可愛い）


その可愛さが、煽る。


僕の制服の裾を、がそっと掴んでいた。
震える指先が、僕の熱を確かめるようにぎゅっと布を握っている。


ふと、目を開けた僕の視界に、の睫毛が濡れているのが映った。


（……涙？）


流石に、やりすぎた？
けれど、すぐに思い直す。
きっと、緊張して、戸惑って、息が詰まって。
……そう、怖いわけじゃない。拒んでるわけでも、ない。


彼女の手が、まだ僕の裾を握っている。
逃げようとせず、むしろ――


そう感じた瞬間――
僕の中で、何かが完全に崩れた。


唇を離さないまま、舌先をもう一度、絡める。
少し強く。
音が立つほどに。



「……ん、んぅっ……！」



の肩が跳ねた。
それでも彼女は目を閉じたまま、舌先をわずかに動かしてきた。


応えようとしてくれてる。


……たまらなかった。
その健気さも、震える呼吸も、甘い声も――
全部。


このまま、時間が止まればいい――
そんなことを、本気で思ってしまうくらいには、僕はもう、とのキスに溺れていた。