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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


……どのくらい、そうしていたのだろう。
時間の感覚なんて、とっくに溶けていた。


名残惜しさに、ほんの少しだけ時間をかけて。
僕らはそっと顔を離した。


の頬は真っ赤で、吐息がまだ浅い。
額にかかる髪がわずかに揺れているのを、じっと見つめる。


(……あー、可愛すぎ)


それ以上の、言葉にならない感情が、喉の奥にせり上がってくる。



「――」



名前を呼ぼうとした、その瞬間だった。



「じゃあ、帰ります」



が急に立ち上がった。



「……ん?」



思わず、間抜けな声が漏れる。


彼女は目を逸らしたまま、慌てたように制服の裾を整えながら言った。



「明日も……早いので」



明らかに不自然な理由だった。
さっきまでの熱が嘘みたいに、距離を取ろうとしている。


はぺこりと頭を下げて小さく言った。



「紅茶、ありがとうございました」



ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
握る指先は、妙にぎゅっと力がこもっていた。


そして振り返り、僕の好きないつもの笑顔で。
いや、一瞬だけ――
泣きそうな顔に見えた。


でも、すぐに笑って。



「先生、また明日ね」



そう言って、彼女は出ていった。


……僕は、ただそれを見ていることしかできなかった。




あの紅潮も、震える指も、
睫毛に滲んでいた、あの涙にも。
あの一瞬の、泣きそうな笑顔すら――



……まるで、“もう戻らない明日”に向かうようだった。



それなのに、僕はただ舞い上がって、
「通じ合えた」なんて、どこまでも勝手に思い込んで。


あのときのキスに、彼女が何を込めていたかなんて、
ほんとは――



あの瞳の奥にある“思い”も、“覚悟”も、
なにも掬えなかった。




どうして、気づけなかった?
……いや、僕はいつもそうだ。



大切な人の異変に、
いつだって、気づけないまま――









置いてかれてから、ようやく知る。
 













翌日、彼女は消えた。
高専からも、僕の前からも、跡形もなく。
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