第1章 平穏が終わった日
始まりはいつだったか。
どうして始まってしまったんだっけ。
朝起きて部活の朝練に行き、授業を受けて、友達とお昼ご飯を食べながら休み時間を満喫して、また授業を受けて、一日中謎の眠気と戦い終えたのちの掃除時間が過ぎれば放課後の部活へ行く。
なんてことない、高校生の日常が卒業まで繰り返されるはずだった。
きっと、稀にある親の転勤という理由で私が転校してここへ来てしまったあの日に、すでに壊れ始めていたのかもしれない。必然的にこうなることが決まっていたのかもしれない。
そう考えると警告音を聞き取れなかった私が悪いのか?理不尽だな。
そう。
あれは、高校二年生の梅雨前のこと───…
「またひとりで耽ってる」
「あ、ちょっと邪魔しないでよ角名くん」
突如、お弁当の唐揚げに箸をつけたままだった現実に引き戻される。
他クラスの角名くん。声をかけられたことに胸の内がモヤッとしてジト目で睨みつけたけど、角名くんの口角は楽しそうに上がっていて。なんで楽しんでんだコイツと気を取られているうちに私の目の前の弁当から卵焼きを奪っていった。早業である。身長デカくて存在感あるくせに俊敏すぎる。
「あーもー私の卵焼きー!」
「んん、今日もおいしいよ。でもちょっとしょっぱいね」
「今日暑いからね」
「なーる」
「俺にも卵焼きちょーだい」
「は?ラスイチぞ?あげるわけない」
「ほんなら俺は唐揚げ!」
「ねぇまじで帰ってあんたたち」
午前中ずっと待ち遠しいせっかくの昼休み食事タイムなのに、横から前からひっきりなしに手や声がイタズラしてきて嫌になる。
転校してきてできた友達ときゃいきゃいお話しながら朝早起きして作った美味しい弁当を食べたいのに、どうして友達を跳ね除けられてまでこの男どもと食べなければならないのか。
甚だ疑問である。まことに遺憾、怒りすら湧く。
男子バレー部員の角名くん、宮侑くんとその双子の治くん、そして大人しく耳を傾けながら食事をする銀島くん。
みんな私と同じ二年生だけどクラスは違う。隣のクラスというわけでもないし、むしろ教室は三つ四つ離れているのにわざわざ私のクラスに来て私とご飯を食べている。わざわざ周囲の机を寄せ合ってまで。
まあそんなこともあるよねって納得できる人はいないと思うのだ。