第3章 からかいは適度が吉
「りっちゃん終わった〜?」
「はいっ」
朝練の時間。
前日に干した洗濯物を干場から取り込んで体育館に戻れば、すでに朝練の片付けが終わりそうな状態だった。
思ったより時間がかかってしまったらしい。何にって、取り込んだ洗濯物を畳んで部室に置きに行って、それから部室の隅にあるホコリが気になって掃除したり、ロッカーの上や側面を水拭きしたり、窓拭いたり……最近ずっと蒸し暑いせいか湿気の匂いがこもっている部室に、ファブリッシュあったっけ?と探して。ちょっと見つからなかったから諦めて、部室内に貼ってある女バレ部員の思い出の写真を整えたり貼り直したり。
寄り道しすぎた。
洗濯物を取り込んですぐ戻ればよかったのに。
サボってたわけじゃないから怒られはしないだろうけど、朝練に参加してないも同然だ。体育館に居なかったのだから。
「すみません、遅くなりました」
「ええよ〜、どっか掃除しとったんやろ?」
「はい、部室やってました…」
「え、まじで? めっちゃ綺麗なってそう、楽しみやな〜!みんな早う終わらそ〜!」
きゃっきゃとはしゃぎながら床をモップ掛けして、「ほなまた放課後!」と皆でハイタッチしてから体育館を出た。
教室へ向かう途中で友達と出くわし、他愛ない話をしながら歩く。
朝のこの時間が好きだ。昨日の放課後さよならをしてから今までの時間は、部活が違えば話の内容もまったく違って面白いし。
授業も、嫌いじゃない。
雨が降ってるとちょっと気分が乗らないけど、晴れた空から降りそそぐ日差しを少しだけ浴びながらあくびを零して、黒板の文字をノートへ移す。なんてことない日常だけど、私の人生に色濃く爪痕を残していくのだ。
大人になってからきっと、ひとつくらいは思い出せることがあるはず。
でも一個だけ。
楽しみなはずなのに、最近はずっと憂鬱な時間。
「来たで!」
「帰って」
「まあそう言わんといて、な?机借りるでーええよー」
毎日毎日飽きもせず決まって昼休みに昼食を持参してやって来る、勧誘を諦めきれない男バレ主将の差し金、もとい男バレ二年衆である。
ほんとうに迷惑極まりない。
また今日も友達とお昼ご飯を食べられないのか。
ジェスチャーでごめん、と友達に伝えれば、何故か微笑ましそうに両手でサムズアップされた。え、なんで?本当にわからない。
