第2章 “ちゃんと”した子
『す、すまん…ほんまに…』
『まあ、勘違いさした俺も悪いけど。怖がらすのはあかんよ』
『や……俺が悪いですすんません』
『幸村さん、やんな。話すんは初めましてやのに、こないなことになってもうて申し訳ない。すまんな、泣かんといてや』
顔を覗き込まれて、ゆっくり頷きつつ下唇を噛んで涙が零れそうなのを堪えた。
直後だった。
『立華ちゃんここおる!?』
ガタン!と体育館の扉が揺れる音が響いて、振り返ればそこには信頼できる人物、女子バレー部の部長がいた。
安堵からか、喉から ヒクッと音が出て、堪えていたはずの涙がぽろりと落ちる。その瞬間を部長に見られた。
タイミングが最悪だった。
何故か(可愛がっている(by部長))マネージャーが泣いている。
威圧感たっぷりな(ように見えた)男バレ主将に顔を覗き込まれている。
身長180cm越えの男二人に両手を捻り上げられている(ように見える)。
そんな状況を見て部長は激怒。
そして一言叫んだ。
『 ウ チ の 子 に 何 し と ん ね ん っ!!! 』
体育館の向こうにあるグラウンドで部活動をしていた生徒にも聞こえるほど、響きわたった部長の声。
まるで我が子を守る母親のような叫び声だったと噂がたち、しばらくネタにされた。
部長が来てくれたことでなんとかこの騒動は終息。
でも落ち着きを取り戻した私とは裏腹に、部長の怒りはおさまらず。
『立華ちゃんは絶ッ対渡さんし、もう二度とこんなことせんといてな北くん!あと宮……どっちか知らんけどあかんからな、触るのも近づくんも禁止や、許さへんからっ!!』
ものすごい剣幕で、外敵から守るように私を抱きすくめながら男バレ連中に説教した。
私の教室に押しかけた三人と、主将の北さん。皆が皆私に謝ってくれたからこの件は許そうと思った。
でも。
『…何や北くん、何か言いたいことありそうやなその顔。無駄にイケメンやで』
『……かい』
『え、なに?』
『…一回、いや、一日だけでええから』
『は? あ、待って、言わんとって』
『頼む、幸村さんを男バレに貸しt』
『言うなって言うたやろ!絶対にイ、ヤ、で、すぅ〜!』
誰より、部長が激おこみたい。
──斯くして、昼休みに四人が押しかけてくる日常が始まったのであった。