第3章 イルバニ:03│刹那は貴方から始まる
【刹那は貴方から始まる】ドリームside
イルバーニ:婚約者│1(2/3)/4P│5000字
ドリノベ様再投稿用変加筆済
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問題もなく訪れた[お見合い]と言う名の顔合わせの日。
わたくしはまるで姫君のように着飾らせられて人形のように大人しく座っておりました。
この場に同席するのはわたくしの両親とイル・バーニ様とご家族。そして元老院議長。その顔触れを見れば、これがどのような形で成り立つ話なのかを察するにいたります。
婚姻を結ぶ当人同士のわたくしとイル・バーニ様を置いて、周りが着々と話を進める最中に彼が口を開きました。
「宜しければ少し……二人でお話しませんか」
真っ直ぐにこちらを見ていた瞳や仕草は感情を浮かべてはおらずにそれを読み取ることはできません。だけれどなぜかその瞳を逸らすことはもっとできなくて………うなづいたわたくしは差し伸べられた手に自然に、無意識に手を重ねております。
───そうして二人で中庭に出ると外の空気が吸いたかったと気づきました。
(無意識でも息が詰まっていたのですね)
連れ出してくれた彼に感謝を込めて微笑みました。そしてイル・バーニ様は淡々と、まるで彼こそが人形のように話し出したのです。
「あなたや関わった方々には申し訳ないがわたしは婚姻を結ぶつもりはありません」
述べられた言葉にドキリ、と心臓が動きましましたがなぜなのかは分からないけれど、不思議と悲しさや悔しさは湧かずに彼の抑揚のない声が耳に心地良くてただぼぅとしておりました。
「理由を申し上げますとわたしは、忠義を誓った我が主である───『カイル殿下より先に妻を迎えることはしない』と昔から決めています。この度のことは本意ではなく、避けられずに至ったことなのです」
「………仰りたいことは理解できました。ですがわたくしには今回のお話の父への、元老院まで絡んでいる縁談への関与はできませんよ?」
(自分の声などより彼の…彼の声が聞きたい)
意識はひどく冷静なのに心はそんな場違いなことを求めてくるのです。
「えぇ、この婚姻の話はわたしの方であなたに傷がつかないように終らせておきます。あなたにもご理解頂けるならば問題はないでしょう」
『終わり──』その言葉が胸を刺しました。
