第2章 午後の来客
ランダルは、息をひそめていた。
どこかで鳴いた鳥の声が、遠くに溶ける。
葉の隙間からのぞくその姿が、視界の全部を占めていく。
――ひかりの下、が、無防備に横たわっていた。
白いタンクトップの肩が、ゆるく肌に沿っている。
ショートパンツからのびる脚が、陽射しに照らされてきらきらしていた。
その肌の上を、風がなぞる。
草の香りと、陽射しの熱が混ざって、
見ているだけで、胸の奥がむずがゆく、喉がひりつく。
(なんで……そんなに……)
わけもなく、唇を噛んだ。
足が、勝手に一歩前に出そうになる。
でも、それを全力で抑え込む。
彼女は、何も知らずに笑っていた。
ああ、なんで。
なんでそんなに、きれいなんだ。
……ちがう。きれい、なんて言葉じゃ足りない。
もっと、もっと。見たい。触りたい。動かしたい。
声を聞きたい。反応がほしい。ぜんぶ、こっちを見てほしい。
(全部、欲しい――)
胸の奥で何かがカチリと音を立てる。
でも、はそれに気付くはずもなく、
つま先を上に伸ばすようにして足を組み替え、
サングラスをくいっと押し上げる。
「……ああ、ほんと、気持ちいい……」
空に向けて、のんびりと息を吐いたその声が、
風に乗ってランダルの方まで届いてくる。
そのたびに、ランダルの喉が、ぴくりと跳ねた。
――ねぇ、いま、ぜんぜんこっちを見てないでしょう?
彼女の無関心さが、まるでとどめのように胸に刺さる。
それが、苦しくて、嬉しくて、ぞっとする。
そして、すぐそばでは。
ヤギのような何かが、黙々と雑草をもしゃもしゃと食んでいた。
地面に顔を押しつけるようにして、ただひたすらに、草をむしりとる。
空気も読まず、緊張もせず、ただのどかに、機械のように。
「……もっ、もっ、もっ……」
静かで、やけに平和なその音が、余計に不気味だった。
ランダルの目は、その音にも、動きにも気付かない。
ただひとつ、だけを見つめている。
その目の奥で、言葉にならない何かが、どくん、と脈打った。