第3章 ふたり、それぞれの午後
カラン、と小さな鈴の音がした。
が店の扉を軽く押して、
雑貨屋から通りへと出てきた。
袋をひとつ、手に提げている。
なにを買ったのかはわからないけれど、
その表情には、ほんのりと満足そうな色が浮かんでいた。
ランダルは看板の陰に身を潜めたまま、
その様子をじっと見ていた。
は特にこちらを振り返ることもなく、
通りの先へ、また歩き出す。
ふわり、とワンピースのすそが揺れた。
ランダルは、息を詰めるようにして、
それに続く。
歩幅を合わせて、
でも絶対に、気づかれないように。
それだけを考えて、靴音をできるだけ小さくした。
は、少し上を向いて歩いていた。
この街に吹く風、
通りに並ぶ店の匂い、
かすかに聞こえる人々の話し声。
そんなものを、無邪気に受け取るようにして、
軽やかな足取りで進んでいく。
ランダルは、それを追いかけるだけだった。
理由なんて、いらなかった。
言葉にできる思いなんて、何ひとつ、必要なかった。
ただ、
ただ、見失いたくなかった。
それだけだった。