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おとなりさん【ランフレン夢】

第3章 ふたり、それぞれの午後


は、まだ店先でしゃがみ込んでいた。



細い指先が、何か小さな雑貨をつまんで持ち上げる。
光を透かして、きょろきょろと角度を変えて見つめている。



その動きが、なぜだかたまらなく愛おしく見えた。



(……かわいい)



ランダルは、ぐっと自分の肩を抱くように腕を組んだ。
どこにもぶつけられない気持ちを、必死に押しとどめるみたいに。



汗ばんだ手のひら。
乱れる呼吸。



ただ後ろから見ているだけなのに、
胸の奥で、何かがじわじわと膨れ上がっていく。



が小さく笑った。



小さな声で何かつぶやきながら、
気に入ったものをそっとバッグにしまう。



その仕草ひとつ、音ひとつ、すべてを――
ランダルは、無意識に焼きつけようとしていた。



(……全部、欲しい)



彼女の声も、動きも、
笑ったときの目元も、
指先も、髪も、
その全部を、自分のものにしたいと、素直に思った。



――でも。



(いやいや、だめだ)



いまは、だめだ。



今ここでそんなことをしたら、が困るだけだ。



それだけは、ちゃんとわかっていた。



だからランダルは、何もせず、
ただ、遠くからそっと見守るしかなかった。



それが正しいかどうかなんて、考えたこともなかった。
ただ、いまは、そうするしかないと知っていた。





は、何も知らないまま、
店先で静かに楽しそうに、午後を過ごしていた。

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