第1章 導入
「それじゃあ、ルーサーさん。改めて、よろしくおねがいします」
私は深く頭を下げる。
礼儀はきちんと――それが第一印象を決めるって、誰かが言ってた気がする。
ルーサーはわずかにうなずき返し、短く言った。
「……こちらこそ。いい挨拶だった」
その言い方は、まるで採点でもするような口調だったけれど、
悪い気はしなかった。
私はにこっと笑って、くるりと背を向けた。
手ぶらになった両手を軽く振りながら、帰り道を歩く。
(……変な子だったなぁ)
そんな感想が、ふと頭をよぎった。
でも、あの照れくさそうな顔と、あの声。
なんだか、ちょっとだけ思い出し笑いしちゃいそうだった。
扉の奥では――
ルーサーが、さっきのやり取りを思い返していた。
「……感じの良い子だ」
呟いたその声には、特別な感情は乗っていない。
ただ、静かに評価を下したような響きだった。
その横で、ランダルはじっと――
開いたままの扉の向こう、遠ざかっていく背中を見つめていた。
ひとことも発さず、まばたきすらせず。
ただ、名残惜しそうに、
でもそれ以上に、何かにとらわれたように。
彼の視線が離れたのは、
私が玄関の角を曲がって、完全に見えなくなったあとだった。