第1章 導入
握手を終えると、ランダルはぱっと手を引っこめた。
まるで何かに触れたのがバレるのを怖がるみたいに、ぎこちない仕草だった。
「……あ、ご、ごめ……」
小さくつぶやくような声。
けれど私がなにも気にしていないとわかると、
彼は安心したように、ほんの少しだけ表情をゆるめた。
その顔はまだどこか幼いのに、
言葉を探す間の目だけが、妙に真剣で――
(……ふしぎな子)
「クッキー、好きだといいんだけど」
私はそう言って、また笑ってみせた。
「うん……たぶん、すき……」
ぼそっ、と。
ランダルは、伏し目がちにそう答えた。
すると後ろでルーサーが静かに腕を組み直し、
低い声で言った。
「……ランダル。さんはお隣だ。挨拶はきちんと」
「……っ、は、はい」
ランダルはぴしっと姿勢を正して、私の方を向き直る。
でも顔だけは、少し赤くなっていた。
「えっと……その……また、遊びに……きてもいいよ」
あまりに唐突だったから、私は目を瞬いた。
でも、彼がそれを言うのにどれだけの勇気を使ったのか、
きっと本人より先に私が気付いてしまって――
「うん、ありがとう」
笑顔のまま、そっとうなずく。
「じゃあ、そのうち、手土産なしで遊びに行くね」
そう答えると、ランダルは少しだけ目を見開き、
それから――ふわっとした、ほんとうにうれしそうな笑みを見せた。
たったそれだけのことが、どうしてこんなに印象に残ったのか、
そのときはまだ、わからなかった。