第3章 ふたり、それぞれの午後
影が伸びた午後の道。
その隅を、静かに、けれど確かに、誰かの気配が追いかけていた。
ランダルだった。
門のそばで、ふと目に留まったの後ろ姿。
思わず、呼び止めることもできず、
ただ無意識に、足が動いていた。
距離は少し離れている。
でも、彼女のワンピースが揺れるたび、
細い肩越しに揺れるバッグの紐が見えるたび、
ランダルの胸は、ぎゅっと小さくしぼられるように締まった。
(……なんで、声、かけられないんだろう)
自分でもわかっていた。
別に、悪いことをしているわけじゃない。
ただ後をついていくだけ。
それなのに、
心臓はびっくりするくらい速く打っていた。
は振り返らなかった。
パン屋のショーウィンドウに目を輝かせ、
雑貨屋の看板に足を止め、
カフェのメニューをじっと覗き込む。
全部に夢中で、
まるでこの世界に、彼女ひとりしかいないみたいだった。
ランダルはその後ろ姿を、
追いかけるように、でも見失わないように、
慎重に、慎重に、歩幅を合わせた。
少しでも気を抜いたら、彼女が遠くに行ってしまいそうで、
でも、近づきすぎるのは、怖かった。
(……見つかったら、どうしよう)
そんなことを思う自分が、ひどく情けなくて、
けれどどうしようもなかった。
彼女は、何も知らない顔で、
今日も、まっすぐ前を向いて歩いていた。