第3章 ふたり、それぞれの午後
午後の日差しは、やわらかく乾いていた。
空は高く、少し白っぽくかすんでいて、
吹き抜ける風が、街中の木々を静かに揺らしている。
私はショルダーバッグを肩にかけ、
通りに出た。
まだ慣れない道だったけれど、
新しいものを探しに行くんだと思うと、自然と歩幅が弾んだ。
ワンピースのすそがふわりと揺れて、
サンダル越しに、舗装された歩道の感触が伝わってくる。
バッグの中には、小さな買い物用の財布と、簡単なメモ。
「気になったら買う」「無理はしない」
そんな気楽なルールだけ決めて出てきた。
きょろきょろと周りを見ながら、
私はひとつ目の角を曲がる。
パン屋さんの看板。
雑貨屋さんのカラフルなディスプレイ。
まだ行ったことのない小さなカフェ。
どれもこれも新しくて、
目に映るものすべてが、ちょっとした冒険だった。
そんなふうに、私は夢中で歩き続けていたから――
後ろから、誰かの視線が追いかけて来ていることにも、まったく気づかなかった。